金融緩和がおこなれたとしてもそんなに簡単に景気は改善しては来ないだろう

市場では来年早期にも金融緩和が行われるだろうという期待感が大きくなってきています。実際、早期に緩和が行われるかどうかはわかりませんが、少なくとも金利引き上げは終了し、インフレも落ち着きを見せるとともに、経済も正常化へ向かうという期待は大きくなっているとは思います。しかし、実際にはそう簡単には行かない可能性もあり、そのことを指摘する声も小さくはありません。

来年の期待感に対する警戒

来年の経済について、金融緩和期待から市場ではやや活気づいてきていますが、そのことについて警戒する声が大きくなってきています。

ウォール街は2024年の米利下げ期待で活気づいてるが、現実の世界は金融引き締めによる影響からまだ抜け出したわけではない。

  過去2年間、中央銀行はインフレ抑制の取り組みで積極的な引き締めを行ってきた。そのため企業や消費者の借り入れコストは上がり、それが来年も支出を圧迫し続けるとみられる。  

  「要するに、米金融当局による利上げで生じている痛みは2024年も続くということだ」と、アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トルステン・スロック氏は指摘。「景気抑制効果はすぐには消えない」と語った。

  金利上昇が経済全体に波及する中、ブルームバーグ・エコノミクスは2024年の世界経済について、金融危機とコロナ禍を除いて2001年以来の低成長にとどまると予想する。経済のソフトランディング(軟着陸)を達成できたとしても、今後数年で巨額の債務が満期を迎える中で一部企業は借り換えコストが上がり、債務不履行(デフォルト)につながるかもしれない。消費者信用はすでに圧迫されており、地方銀行は商業用不動産の評価減による打撃に直面している。

  今問われているのは、インフレの脅威を過小評価していた各中銀が今度は利下げに転じるのが遅すぎとなり、景気減速に歯止めをかけられなくなるのではないかという点だ。

  シティグループのエコノミストが今年行った分析によると、米国とユーロ圏の貸出調査で示された信用力低下は、来年末までに両地域の実質成長率を1%から2%程度押し下げる可能性がある。ブルームバーグ・エコノミクスのエコノミスト、スチュアート・ポール氏は「金融政策の効果が根強く残るため、金利敏感なカテゴリーでは支出の軟化が続く」と予想している。

  一部のエコノミストは金融引き締めによる痛みが長引くとの見方には同意しておらず、リセッションを予想する悲観派はむしろ減っている。

  それでも、家計にとって厳しい状況が続いていることは間違いない。物価高やサービス価格の高騰、家賃やクレジットカード金利の上昇で家計は消耗している。

  食品大手ネスレのマーク・シュナイダー最高経営責任者(CEO)は、過去2年間の高インフレで「消費者が家計のやりくりに苦労するのは当然とも言える」と指摘。それに加えて金融引き締めが「今や実体経済に及んでいる。住宅ローン金利やリース料、家賃などの上昇が消費者の警戒感を強めている」とブルームバーグTVのインタビューで語った。

  ウェルズ・ファーゴのエコノミスト、シャノン・シーリー氏は「米金融当局が政策緩和を始めたとしても、より緩和的な環境が経済全体に波及し、消費者の借入コストに反映されるまでには時間がかかる」とみている。

  企業も痛みを感じ始めている。玩具メーカーのハズブロは、重要なホリデー商戦での販売不振を理由に、従業員の20%近くを削減すると明らかにした。フォード・モーターは主力電気自動車(EV)の「F-150ライトニング」について、顧客が割高な価格を敬遠していることを理由に2024年の生産台数目標を大幅に減らした。ナイキは売上高見通しが弱まる中、人員削減や品ぞろえの簡素化を通じて最大20億ドル(約2840億円)の経費削減を目指す方針を示した。

  ビシュワス・パトカー氏らモルガン・スタンレーのストラテジストは、社債の格下げが増えるとの見方を示している。景気抑制的な金融政策が及ぼす遅効性の影響が継続し、それが業績不振企業のキャッシュフローと債務返済能力の両方に打撃を与えるというのが理由だ。

  2023年には、クレディ・スイスという世界的銀行が破たんに追い込まれた。米国では地域金融機関の経営危機が発生し、それが飛び火するのを防ぐために大手行や政府、規制当局の介入が必要となった。

  相次いだ地銀の破たんは有価証券ポートフォリオでの損失が発端だった。商業用不動産(CRE)ローンの不振は今後数年、中小金融機関の多くに打撃を与える恐れがある。トレップの調査によると、2兆8000億ドルに上るCRE債務が来年から2028年までに満期を迎え、その多くは銀行が抱えている。

引用:bloombergより

このように来年の緩和期待をよそに、景気失速や期待したほどに明るい未来はないのだろうという声は小さくないような気がします。もちろん、インフレは落ち着きを見せたことは事実ですし、利上げもこれまでのような厳しいものになる可能性はかなり低いと思われます。なので方向性としては金融政策は緩和方向へと進むでしょうが、そのスピードは期待通りのものになるとは限りません。予想外にインフレが落ち着かず、利上げは行われなくとも利下げが実行されることなく、金利が高止まりする可能性も十分にあるでしょう。また、利下げが行われたとしてもすぐに経済が活性化するとは限りません。今は長らく続く引き締め政策により借り入れコストは非常に高くなっています。その影響というのはしばらくは残ることになるでしょう。そういう意味では期待するほどに来年中に経済が上昇しない可能性もあり得ることは覚えておいたほうがいいでしょう。

急激な変化は望んでいない

実際、どうなるかはわかりませんが、市場の期待がやや高くなっているのはいつものことかなという感じがします。まず、早期の緩和期待というのは確実に楽観的すぎるような気がします。インフレ指標は落ち着きを見せており、その期待もわかるところではありますが、労働市場など今なお堅調な指標も多くあり、そこまで一気にインフレが落ち着くことはないような気がします。それこそがFRBが望むソフトランディングノカタチであり、急激な減速というのは当局も目指してはいないでしょう。そういう意味ではゆっくりゆっくりとインフレは落ち着いていって、来年半ばから後半にかけて利下げが行われるというのが一番可能性が大きいのかなという感じがします。実際、当局からもそこまで早期の利下げを期待する声は上がってきていません。なのでそこまで的外れではないような気がします。経済状況についても非常に好調な結果も見られますが、やはり引き締めの影響もくすぶり続けているものも多く見られます。そういう意味でもそんなに簡単に景気は回復しないでしょうし、減速もしないでしょう。事態はゆっくりと進んでいくと思います。

まとめ

今日は来年の経済予想について考えてみました。利下げは市場が期待するほどには行われることはないでしょう。景気もそこまで強くはなく、株価が力強く上昇するほどではないと思われます。労働市場は比較的安定しており、急減速することもないでしょう。そういう意味では思った以上にゆっくりと経済正常化へは向かうのかなという感じがします。、