インフレ鈍化の兆候も景気悪化の懸念はぬぐえない

米国のインフレは確実に落ち着いてきてはいるようですが、景気の先行きに対してはそれでもなお悲観的にならざるを得ない状態です。物価が落ち着いては来ていますが、企業業績が悪化していることは確実であり、今後のリセッションの懸念はまだまだ払しょくされていないと思われます。そういう意味ではいつも言っていますが、過度な楽観論は禁物です。

インフレに有益な兆候が見られる

イエレン財務長官は記者会見において、米国を苦しめているインフレに極めて有益な兆しが見えているとの発言をしています。

イエレン米財務長官はインフレ動向を前向きに感じていると述べ、米国の労働市場が堅調を維持しながらも世界各地でエネルギー価格とサプライチェーンの問題が緩和しつつあると主張した。

  イエレン氏はザンビアの首都ルサカの地域医療センターを訪問した後で記者団に対し、「現在目にしているのは、サプライチェーン問題の著しい緩和と在庫の増加、輸送費用の低下だ」と発言。「従って、そうした部分のインフレはもはやあまり有意な形で寄与していない」と論じた。

 インフレ指標のいくつかは、ここ数週間に前向きな兆しを示している。消費者物価指数(CPI)上昇率は12月に前年同月比6.5%と、6月の9%から鈍化。生産者物価の上昇率も予想を上回るペースで低下した。

  イエレン氏は財の価格が昨年終盤に低下したと指摘、同年下期の物価上昇圧力に大きく寄与した住宅市場の過熱も今年半ばまでに冷めるだろうと予想した。

  「向こう6カ月で、米国のインフレに対する住宅価格の押し上げはほぼなくなるはずだ。米国の堅調な労働市場とインフレの改善は続くと考えている。極めて有益な兆しだ」と語った。

引用:Bloombergより

このようにイエレン財務長官は最近のインフレ関連の指標の落ち着きを素直に交換する発言をしました。相次いでインフレ鈍化を示すような経済指標が発表されたことは事実であり、そういう意味では当然の発言かなとも思います。この流れが順調に続いていくのであれば住宅価格へも当然ながらよい影響は与えるとみられ、この先不動産市場も正常化へと続いていくことは十分に考えられます。

インフレ鈍化=景気回復ではない

しかし、インフレが落ち着いたからといって素直に景気が回復するとは限りません。むしろその方が確立が高いといっていいでしょう。しかしながら市場はやや楽観的な空気に支配されており、それを警告する声も数多く聞かれます。

米国株に対するセンチメントの改善は悪化する経済指標や企業利益に逆行していると、モルガン・スタンレーのストラテジスト、マイケル・ウィルソン氏が主張した。

  米国株弱気派のウィルソン氏は23日、先行指標の急激な落ち込みを指摘。これが企業利益の急低下につながり、最終的に米国株の下落を引き起こすだろうと分析した。米連邦準備制度のタカ派姿勢後退と中国の経済再開、ドル安による最近の楽観は既に株価に織り込まれたとの見方を示した。

  「問題は株価指数がいつ、現在の先行指標の悪化と最終的なハードデータの悪化を織り込むかだ。当社は今四半期中になると考えている」と説明した。

  S&P500種株価指数は昨年10月半ばから11%近く上昇。数カ月にわたり利益予想が引き下げられていることを踏まえると、過去の平均的水準に比べ割高に見える。

  JPモルガン・チェースのストラテジスト、ミスラブ・マテイカ氏も、企業利益を懸念材料に挙げる。企業の価格決定力が反転し弱まり始める今年の環境は特に厳しいと予想した。

  需要の失速と消費者の過剰貯蓄が減ることで企業の価格決定力は今年後退に向かうとみている。新型コロナウイルスのパンデミック中に積み上げた貯蓄を顧客が使い果たすため、企業の収入への「特別な支援」はもはやなくなると論じた。

  「2022年10-12月(第4四半期)の企業業績が失望をもたらさないとしても、1株利益見通しの上方修正は23年上期にはないと思う」とマテイカ氏はリポートに記した。

引用:Bloombergより

このようにモルガンスタンレーのストラテジストは最近の楽観論にくぎを刺しています。個人的にはこの考え方には賛成です。市場は何か楽観的なもの、悲観的なものなど目の前にあるものを過度にとらえがちです。今は落ち着いてきたインフレ指標を過剰なまでの期待感から評価しているように思います。しかし、米国経済はそれほど楽観的には見えず、企業業績等を見れば先行きに対して悲観的にならざるを得ません。そういう意味ではこの指摘というのはとてもまっとうなものといっていいでしょう。

まだまだ油断は禁物

インフレが落ち着いてきたということはほぼ間違いないでしょう。もちろんまだ上昇するということもあるかもしれませんが、現状その可能性は低いように思います。ただ、そうはいっても素直に目標とする2%へと到達するとは思えません。しばらくは物価は高止まりし、時間をかけてゆっくりと下落していくことでしょう。なので金利もしばらく高くなる可能性が非常に高いと思われます。当然、そうなれば株式市場にとってはマイナスですし、企業業績もこれによってプラスになるとはとても思えない状況です。そういう意味ではインフレが落ち着いてきたということは素直に喜ばしいことですが、それをもって株価が上昇するというわけではないということは頭に入れておいた方がいいでしょう。

まとめ

今日はインフレの動向と今後の景気の見通しについて考えてみました。インフレはおそらくはピークを打ったと思いますが、期待するほど急激には落ち着いては来ないと思われます。なのでしばらくはインフレも金利も高止まりするものとみられ、景気後退の確率もまだまだ十分に高いといわざるを得ません。そういう意味では過度な楽観論は禁物です。もちろん長期的に見れば米国株式の優位性というのは全く緩いではいないと思いますが、短期的にはかなり悲観的な状況も十分にあることは頭に入れておくべきです。