新規失業保険申請は予想外に増加。しかし金融緩和にはならないだろう。

好調だった労働市場にも少し陰りが見えてくるかもしれません。米国の新規での失業保険申請件数が市場予想を上回り、雇用環境が悪化してきている可能性も出てきました。米国経済は高いインフレによるリセッション懸念が強く残っていますが、強い労働市場などを反映してまだその可能性は低いという見解も多く存在します。しかし、その労働市場でも弱さが出てくるとなるといよいよ米国経済も腰折れとなる可能性は高くなってきたのかもしれません。そういうわけで今日は先日発表された新規失業保険申請件数についてみていきたいとおもいます。

失業保険申請件数は予想外に悪化

4日に米労働省が発表した7月30日までの一週間に申請された新規の失業保険申請件数は市場予想を上回る結果となりました。

米労働省が4日発表した7月30日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は前週比6000件増加し、26万件だった。エコノミスト予想の25万9000件を上回り、労働市場の一部が軟調になっている可能性が示された。

オックスフォード・エコノミクスの主席エコノミスト、リディア・ブースール氏は「労働市場の状況が徐々に冷え込むにつれ、申請件数が増え続けるリスクはあるが、労働者に対する需要が供給を上回り続けているため、現在の水準からすぐに急上昇することはないだろう」と述べた。

ムーディーズ・アナリティクスのエコノミスト、ライアン・スウィート氏は「申請件数がこの水準で推移し始めたら、雇用の減少が始まり、失業率が上昇するリスクが高まるため、懸念材料になる」と指摘。「失業率の上昇はリセッション(景気後退)の不吉な警告になる」と述べた。

引用:ロイターより

このように新規失業保険申請件数は市場予想を上回る結果となり、雇用環境の悪化の可能性が出てきました。この数字だけを見てどうこうといえるものではありませんが、いい話ではないことは事実です。季節変動等の理由で多少の誤差はあるとは思いますが、雇用環境が悪化している可能性を示すのには十分でしょう。特に最近の相次ぐ悪い経済指標とも整合しますし、ようやく労働市場にも景気減速の影響が出てきたのかなという感じです。もちろんこれだけですぐにリセッションということはありません。雇用環境の悪化についてもそれほど大きな影響もなく回復する可能性もあるでしょう。そういう意味では今後の推移をしっかり見極めなければいけませんが、現時点ではあまりよい状態とは言えないといっていいのかなと思います。

それでもFRBは引き締めの手を緩めないだろう

雇用以外でも徐々に景気減速の懸念が出てきてはいますが、FRBとしてはインフレ抑制に重点を置くというのは変わらないでしょう。そのような発言はFRB関係者からも相次いで出てきています。

米クリーブランド連銀のメスター総裁は4日、米金融当局はインフレ抑制にコミットしており、需要を抑えるために一段の利上げを実施する必要があるとの考えを示した。

  メスター氏はエコノミック・クラブ・オブ・ピッツバーグが主催したイベントで、2%の目標に向けて「われわれはインフレを低下させることにコミットしている」と発言。それには追加利上げが必要だと述べ、8月2日の発言内容を繰り返した。

引用:Bloombergより

メスター総裁はこのように述べ、現在の米国経済はそれほど弱くはなく、インフレ抑制にも十分耐えうるとみています。そのうえで歴史的なインフレ確実に抑えるためにFRBは厳しい姿勢で臨むべきだと考えているようです。この発言からもわかるようにやはりFRBは景気よりもインフレ抑制に重点を置いているとみていいでしょう。なので今回のような景気減速懸念があったとしてもその手を緩めるということはあまり考えづらいのかなと思います。もちろん急激に景気が悪化すれば金融緩和に踏み切る可能性もゼロではないと思いますが、一部市場に流れているような楽観論を裏付けるような証拠は個人的にはないような気がします。現状、FRBは金融引き締めを緩めることはなく、良くて現状維持といったところでしょう。少なくとも利上げのペースが緩むといったことはなさそうだと思っています。

まとめ

今回は先日発表された新規失業保険申請件数についてみてきました。雇用環境もここへ来てようやく悪化してきた感があります。インフレ抑制という意味ではいいのかもしれませんが、景気は確実に減速していくことでしょう。そしてFRBはそれをある程度受け入れている感じなので、この状況はあまり変わらないのではないかと感じています。つまり、FRBは引き締めを継続し、経済状況は緩やかに悪化していくということです。もちろんこれはあくまで個人的な予想であり、そうなる保証はありません。しかし、現状漂っている楽観論というのはやや甘すぎる感じがしますし、景気についても厳しいということは変わりないのかなという感じです。