FRBの厳しい引き締めにもかかわらず、強さを見せつける米国経済

高インフレに悩まされ、成長に黄色信号が点滅している米国経済ですが、依然として力強さを見せる経済指標が相次いで発表されました。FRBの厳しい金融政策の中にあっても米国の経済は堅調であるといっていいのかもしれません。今後についてどうなるかということはわかりませんが、少なくとも現状FRBや市場関係者が心配するような景気後退にはなっていないのかなと思います。というわけで今日は先日発表された経済指標を見ていきます。

ISM製造業景況指数は市場予想を上回る結果となった

1日に発表されたISM製造業景況指数は市場予想を上回る結果となり、米国経済はまだまだ強さを残していることが確認できました。

米供給管理協会(ISM)が発表した8月の製造業総合景況指数は、ここ2年余りで最も低いペースながらも前月から横ばいを維持し、活動拡大が続いたことを示した。一方、原材料コストの指数は5カ月連続で低下し、インフレ圧力沈静化の兆候を示唆した。

  前月までの2カ月に縮小を示した新規受注が8月は3.3ポイント改善し、2020年5月以来の低水準となった生産指数の低下分を埋め合わせた。

  ISM製造業調査委員会のティモシー・フィオレ会長は発表文で「需要に関しては楽観的なマインドが持続し、慎重な見解1件に対し、前向きな成長関連の見解が5件得られた」と指摘。その一方、「回答企業は引き続き景気の軟化に対する不安感を表明した」と記した。

  8月は鉱物や石油、輸送機器をはじめとする10分野で活動が拡大した。

  今回の指数は、緩やかながらも持続的な製造業の伸びと、供給制約のさらなる緩和を示唆する。ウクライナでの戦争や中国の成長減速で活動が縮小している欧州やアジアの製造業に比べ、米国の製造業は健闘している。

  世界経済の軟化やリセッション(景気後退)に対する懸念は、原油や金属、商品の価格下落につながっている。この結果、仕入れ価格指数は7.5ポイント下げ、20年6月以来の低水準となった。前月も18.5ポイント低下していた。

  入荷遅延の指数は新型コロナウイルス禍前以来の低水準となった。在庫指数は4.2ポイント低下し53.1と、4カ月ぶり低水準。在庫増加ペースの減速を示した。

  雇用指数は5カ月ぶり高水準の54.2。製造業で人員が増強されたことを示唆した。

引用:Bloombergより

このように、製造業の現場ではインフレやFRBの厳しい金融政策にもかかわらず、力強さを見せています。もちろん金融引き締めの影響や、ウクライナ情勢、中国の景気減速等リスクを挙げればきりがありませんが、今のところは我々が思っているほど弱気ではないといっていいのだろうと思います。

新規失業保険申請件数も減少

新規での失業保険申請件数も3週連続で減少し、労働市場もいまだ順調であることが裏付けられました。

米国では新規の失業保険申請が3週連続で減少し、2カ月ぶりの低水準となった。経済成長が減速する中でも健全な労働力需要があることが示唆された。

  依然として低水準の継続受給者数に加えて新規申請が減少したのは、労働市場全般のタイトさを浮き彫りにした。8月30日に発表された7月の求人件数は予想外に増加し、過去最高水準近辺となった。

  ハイ・フリークエンシー・エコノミクスのチーフ米国エコノミスト、ルビーラ・ファルキ氏は「これらのタイムリーなデータから、労働市場の状態が劇的に弱まってはいないことが示された。金融引き締めに対応したレイオフはまだ、持続的な形で増えてはいない」とリポートで指摘した。

  一方で住宅やテクノロジーといった一部のセクターでは、雇用縮小の傾向も見られる。こうしたセクターはコロナ禍回復の初期段階に活況を呈していたが、勢いを失っている。

  季節調整前ベースの新規失業保険申請件数は17万6793件に減少。コネティカットとミズーリ、オクラホマ3州での減少が著しかった。ニューヨークとマサチューセッツ両州では申請が増加した。

  より変動の少ない失業保険申請の4週移動平均は、24万1500件に減少し、7月9日終了週以来の低水準。

引用:Bloombergより

このように雇用環境も我々が予想するほど悪くはなっていないようです。もちろん、全体的にはそうだというだけで、IT関係など一部の業種では多くのコストカットが行われており、厳しい状況であることは間違いないでしょう。しかし、米国全体で見ればまだまだ雇用環境もそこまで悪いということもなく、FRBの厳しい引き締めにも経済は耐えうるという説明に説得力を与えるのに十分な結果なのではないかと思います。

為替は1ドル140円台に乗せる

このように順調な経済指標を受けて為替相場では1998年以来の1ドル140円台に乗せる展開となっています。

1日午前のニューヨーク外国為替市場でドルが上昇し、心理的に重要な節目である140円を突破した。8月の米ISM製造業景況指数が前月から横ばいを維持し、予想を上回ったことが相場を後押しした。

  円は対ドルで一時140円22銭に下落し、1998年8月以来の安値を付けた。主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は一時0.9%高の1307.27となり、過去最高値を更新した。

引用:Bloombergより

日本はいまだに金融緩和を続けており、物価の上昇も米国ほどではありません。対して米国は非常に経済も好調で、FRBの引き締めもこれから緩むことはないという感じです。であれば為替が円安に動くのは当然の動きであり、仕方のないことなのかなと思います。140円という心理的なラインを突破したこともあり、今後はさらに円安に動く可能性もあります。ここまで好調な経済指標が続けば9月の利上げも75bpになる可能性はかなり高くなったと思いますし、その後も金融政策が緩む可能性はかなり低くなったのではないかと思います。そういう意味ではしばらく強いドルというのは続いていくのだろうといった感想です。

まとめ

今日は1日に発表された経済指標についてみてきました。米国経済はFRBの厳しい引き締めにもかかわらず、好調を維持しています。これは良い傾向だともいえますが、引き締めても経済が冷やされないとなるとインフレを抑制するのがかなり難しくなっているようにも見えます。このままインフレが収まらずに高止まりを続けた場合、どのようになってしまうのかという心配もありますが、今のところはまあいいのかなといった感じです。それにしてもここまで米国経済が強いというのは正直驚きました。ここまで急激に引き締めを行えばいい加減経済も減速すると思っていたのですがそんなことはないようです。これがいい兆候であればいいのですが、果たしてどうなるのでしょうか。