ついに労働市場にも悪化の兆しが出てきた

消費者物価の数値の発表から米国の金融政策や経済の行方についてやや変化の兆しが出てきました。その影響を受けたということもないとは思いますが、堅調だった労働市場にもようやく変化が起こるかもしれません。新規の失業保険申請件数が久しぶりに高い数値となり、雇用の悪化が懸念される事態となっています。これが一時的なものであればいいのですが、継続的に雇用が悪化してくるとなるとFRBの金融政策にも影響が出てくる可能性もありますし、何よりも米国経済の失速がかなり現実味を帯びてくることでしょう。そういうわけで今日は先日発表された新規失業保険申請件数についてみていきたいと思います。

新規失業保険申請件数は大幅に増加

先日発表された先週の新規失業保険申請件数は市場予想よりも大幅に増加しており、ここへ来てついに労働市場も悪化の兆しが見えてきました。

先週の米新規失業保険申請件数は市場の予想以上に増加し、3カ月ぶり高水準となった。労働市場が減速している兆候が示された。

  エコノミストはここ数週間、継続受給者数のデータを注視している。過去においてリセッション(景気後退)の警告指標と捉えられてきたためだ。今年5月の低水準からは増えてきているものの、昨年や過去の平均をなお大きく下回っている。

  アマゾン・ドット・コムやメタ・プラットフォームズ、HPなど大手テクノロジー企業では人員削減や採用凍結の動きが広がっている。

  ただテクノロジー業界でのレイオフ増加は、必ずしも労働市場全体が低迷に陥る前兆というわけではない。多くのテクノロジー企業は、新型コロナウイルス禍の電子商取引ブームの際に雇用を大きく拡大してきたためだ。ただ他の業界が影響を受けないというわけでもない。物流大手フェデックスは、同社にとって通常一年で最も忙しくなる時期を前に、貨物部門で従業員の一時解雇に動いている。

  より変動の少ない失業保険申請の4週移動平均は22万6750件に増加した。

  季節調整前の失業保険申請件数は4万8000件程度増加し、約24万8200件。申請件数はほぼ全ての州で増え、特にカリフォルニア、イリノイ、ジョージアで増加が目立った。

引用:Bloombergより

このように先週は新規失業保険申請件数は大幅に増加しました。これまでは高止まりするインフレや急激な引き締めに対しても労働市場は堅調に推移してきましたが、ついにその勢いに陰りが見えてきた形となっています。もちろんこれが一時的である可能性も十分にあるので、この結果だけを見てどうこう言うことはできないと思いますが、その兆候が見えたということだけでも市場に与える影響は少なくないでしょう。そういう意味でも今後のFRBの金融政策がどうなるか問うのは非常に注目されるところです。

とうとう労働市場も息切れ

ついにこの時が来たかという感じです。これまで異常なまでに労働市場は堅調でした。いかにインフレが厳しくとも、FRBが強力に引き締めをしようとも労働市場はびくともせず堅調に推移していました。それがようやくその力を失いかけてきた可能性があります。最近は大手IT企業を中心に雇用調整の動きが大きく出てきています。これまで経済をけん引してきたような大企業でも大幅な人員削減が行われるようですし、業績の悪化している企業も多数存在します。そういう意味でもこの失業保険の申請件数の増加というのは当然といえば当然なのかもしれません。

FRBの金融政策変更の可能性はさらに増加した

そこで注目されるのはFRBの金融政策がどのようになるかということです。これまでは景気よりもインフレを抑制することが最優先だとしてきました。しかし、ここへ来てそのインフレがやや鈍化した可能性も出てきており、金融政策の変更の可能性をFRBが模索している空気もあります。そこへ来てこの労働市場の悪化というニュースはその変化の可能性をかなり後押しする可能性があるとみていいのではないかと思います。FRBの中でもまだ引き締めを継続するべきという意見も当然ながら存在するでしょう。しかし、雇用の悪化という現実を突きつけられれば、多少なりとも金融政策の変更へと考えを変える人も出てくる可能性はありますし、少なくともこれをもってさらに引き締めようと考える人はまずいないのではないかと思います。そういう意味でも今回の労働市場の変化というのはFRBの政策変更の可能性をさらに高める結果となるのではないかと思います。

まとめ

今日は新規失業保険申請件数についてみてきました。何度も言いますが、今回の発表をもって何かが決定されたということはありません。しかし、確実にインフレの鈍化と景気後退、そして雇用の悪化という状況は近づいてきていることは確かであろうと思います。そしてそれを見た時、FRBがどのような金融政策を行うかというのも注目です。最近の発言等や今回の発表を見る限り、政策変更の可能性はさらに高まったのかなという印象です。そうであれば短期的には株式市場にとってはプラスでしょう。問題は長期的に見てどうなるか問うところです。個人的にはしばらく米国市場は停滞する可能性もあるような気はしますが、そこは政策での後押しを期待したいところです。