米国の労働者の賃金がすでに天井を打った可能性

依然米国のインフレは収まる気配はありませんが、状況は刻一刻と変化してきているようです。これまで好調であった企業業績にも変化が出てきています。大手小売業やIT企業の相次ぐ弱い決算によって市場はやや上値が重い展開となっています。そして今度は賃金にも頭打ちの兆候が出てきているようです。インフレ下においても旺盛な個人消費によって米国経済は支えられてきましたが、賃金が上昇しないとなってくるとさすがにこれ以上上昇するということは難しくなるでしょう。そういう意味では非常に注目するニュースです。そういうわけで今日はこの件についてみていきます。

米国の労働者の賃金がピークに達した

先週、Bloombergに以下のような記事が掲載されました。

好調だった米国経済を支えてきた個人消費についに限界が来るのかもしれないという非常に重要なニュースです。米国のGDPの多くは個人消費が占めています。なのでこの個人消費に大きな影響を与えるようだと米国経済を大きく冷やす可能性が出てくるのです。そういう意味では大変重要なニュースでしょう。

企業はもう賃金を上げられなくなっている

米国では大幅に労働者が不足していたこともあり、賃金はここ最近は非常に大きく上昇してきました。しかし、それももはや限界にきているようです。

ミルウォーキーに本社を置く人材サービス会社、マンパワーグループのヨナス・プライジング最高経営責任者(CEO)は「雇用主が『もう限界だ』と嘆くような賃金インフレのレベルにすでに到達している」と指摘する。

引用:Bloombergより

このようにもうこれ以上労働者の賃金を上げることは限界だとする企業が増えてきているとのことです。そうであれば今後は米国の労働者の賃金はこれまでのような大幅な上昇は見込みづらくなります。しかし、インフレは以前高止まりしていますから、実質的な賃金は大幅に下落することになるということです。そうなれば当然消費にも影響が大きく出ることになり、経済にとってもとても悪い影響が出てくるでしょう。

金融当局にとってはむしろ好都合

しかし、この状況を喜んでいる人たちもいるようです。それは今、このインフレに対して非常に困難な対応を求められているFRBです。賃金の大幅な上昇があったからこそ消費は非常に旺盛になり、その結果物価も上昇していた側面もあります。その賃金が落ち着くということは物価にも当然影響は出てくるでしょう。それはインフレ退治という側面で見れば非常に好影響になるということです。

ゴールドマン・サックス・グループのエコノミスト、スペンサー・ヒル氏によれば、賃金の伸びは年末までに4.5%に減速する見通しだ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う臨時昇給など、一時的な要因がなくなることが背景にある。FRBが目標とする2%のインフレ率と整合するには、賃金の伸びは3.5%から4%に落ち着かなくてはならないと同氏はみており、その水準にある程度近づくと予想される。「FRBにとってそこから先の仕事はやりやすくなる」と同氏は今週、顧客へのリポートで述べた。

引用:Bloombergより

このように、FRBが目指すインフレ目標を達成するには賃金の伸びも緩やかになる必要があり、そういう意味では今回のような賃金上昇圧力の低下というのは非常に良いニュースなのです。もちろん短期的には購買力の低下となるため経済にとってはいい影響ばかりではないでしょう。しかし、インフレ抑制という観点で見ればよい兆候となるかもしれないのです。

まとめ

今日は賃金上昇圧力低下のニュースから今後のインフレについて考えてみました。賃金が伸びなくなったことは米国の労働者にとっては非常に頭の痛い問題でしょう。企業としも労働者を確保したいとしてももう限界まで来ており、どちらも厳しい状況であるということだと思います。しかし、金融当局にとってみればそれはむしろ良い兆候であり、経済正常化に向けた明るい兆しなのかもしれません。そういう意味では今後もしばらくは軟調な展開は続くとみられますが、明るい兆しも出てきており、長期的には米国は上昇していくのだろうという希望は見て取れるニュースだと思います。