米国の求人件数は非常に強い。労働市場は依然としてタイト。

債務上限問題も一応の決着を見そうだということで、改めてインフレに対する関心は高まってきたように思います。そこで経済を見てみるといまだ強いインフレが居座っているという事実を確認することができます。労働市場を始め、米国市場は予想外に力強く、なかなかインフレ率が低下していかない現状です。そういう意味ではこれまで予想していたとおり、インフレとの戦いは長いものとなりそうな感じがします。

求人件数はとても堅調

4月の求人件数は市場予想を裏切り、非常に力強いものとなりました。

4月の米求人件数は予想外に増加し、3カ月ぶり高水準となった。米連邦公開市場委員会(FOMC)が追加利上げを検討する根拠が増えた格好だ。

  求人件数は小売業やヘルスケア、運輸・倉庫を中心に増加した。一方、宿泊関連や外食産業、ビジネスサービス、製造業では減少した。採用はわずかに増加した。

  金融状況のタイト化で一部の企業は採用凍結を余儀なくされているものの、労働需要はおおむね底堅さを維持している。ハイテクや銀行などホワイトカラーのセクターで人員削減は始まり、他の産業にも拡大し始めている。一方、採用になお苦戦している企業もある。

  今回の統計は労働需要がなお供給を上回っていることを示唆しており、米金融当局は賃金の伸びを抑制するには需給のバランスを取ることが鍵になると強調している。

  ブルームバーグ・エコノミクスのエコノミスト、スチュアート・ポール氏は「求人件数の増加は一時的なものだと考えている。他の指標が労働市場の減速を示唆しているためだ。ただ、FOMCが平均2%というインフレの長期目標を持続的に達成するために、労働市場に依存し続ける可能性が高いことを4月の求人件数は示している」と述べた。

  レイオフは建設業や娯楽、ホスピタリティーを中心に減少した。全雇用者に占める自発的離職者の割合である離職率は2.4%と、この2年余りの最低水準となった。自発的離職者は約380万人。主にヘルスケアやビジネスサービスで減少した。離職率は労働者が自身の職を維持する上での信頼感を示唆する傾向がある。

  失業者1人に対する求人件数は1.8件と、3カ月ぶりの高水準。新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)となる前は、1.2件前後で推移していた。

  労働省雇用動態調査(JOLTS)は回答率が低いため、信頼性を疑問視するエコノミストもいる。回答率は昨年末までに約31%に低下し、3年前のおよそ半分となった。

引用:bloombergより

このように米国の労働市場は相変わらずの力強さを見せています。労働市場の安定というのは経済にとっては非常に良いことではありますが、非常に強いインフレが問題となる現在ではやや厄介な問題となっています。労働市場が堅調であれば消費が力強く伸びていく可能性もあり、物価の上昇圧力となってしまいます。そうなれば当然ながらインフレも落ち着くわけもなく、更に上昇してしまうかもしれません。そういう意味では強い労働市場というのはFRBにとっては非常に頭の痛い問題です。

引き締めは継続へ

実際、FRB内部からはインフレに対して非常に厳しい見方をする声も出てきています。

米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は31日、住宅価格の持ち直しはインフレ抑制を目指す米金融当局の仕事に影響する可能性があるとの考えを示した。

  ボウマン氏はボストンで開かれたFRB関連のイベントで、「新たなリース契約が算出に組み込まれるにつれ、家賃の下落はいずれインフレのデータに反映されると想定するが、住宅用不動産市場は持ち直しつつあるように見受けられ、住宅価格は最近横ばいになっている。これはインフレ率の低下を目指す当局の闘いに影響を及ぼし得る」と述べた。発言は講演原稿に基づく。

  ボストン連銀のコリンズ総裁は同じイベントで、米金融当局は「実に高過ぎるインフレの抑制に努めている」と説明。「物価安定を最大限の雇用の基盤としてみている。最大限の雇用は堅調な雇用市場で持続可能だ」と付け加えた。

  今月発表された4月の米新築一戸建て住宅販売(季節調整済み、年率換算)は2022年3月以来の高水準に増加。中古住宅の在庫が限定的なことから、住宅建設業者が引き続き恩恵を受けていることが示唆された。

引用:bloombergより

このようにボウマン理事は住宅市場の状況からインフレ抑制を目指すFRBにとって厳しい状況であるという見解を述べています。労働市場だけでなく、住宅市場でも依然としてインフレが落ち着くというようなサインは見られません。あらゆる場面でインフレはしつこく居座り、経済を苦しめていく兆候が見られています。そういう意味でFRBは今後も厳しい対応を迫られる可能性が高いと言っていいかもしれません。

インフレは終わらない

わかってはいたことですが、インフレはそう簡単には終わらないということでしょう。米国のインフレ指標は予想よりも遥かに力強く、FRBの厳しい引き締め政策を持ってしてもなかなか収まる気配を見せません。以前のような急激な上昇は流石になくなりましたが、目標とする2%へと収束する気配はまったくないと言っていいでしょう。そういう意味では今後も厳しい引き締めをせざるを得ないということになるかもしれません。しかしながら経済はそれに耐えうるのかどうかはわからないところです。金融不安は一応落ち着きを見せてはいますが、一段の利上げが実施されればさらなる破綻を引き起こす銀行が出てきてもおかしくはありません。企業決算もいい話も出てきてはいますが、予想以上に悪化しているところも多く、全く楽観できるような状態ではありません。そういう意味では非常に難しい状況になってきたと言っていいのかなと思います。

まとめ

今日はしつこいインフレ圧力について見てきました。米国のインフレは相当程度の長期化が予想されています。しかし、実体経済を見る限り、それはさらに予想外の長期化になるのではないかという懸念も個人的にはしています。そうならないのであれば急激な景気悪化などさらに悪い状況へと向かうかもしれません。いずれにせよ楽観的なシナリオは全く描けないというところです。