8月の雇用統計の結果は弱含み。労働市場は想像以上に弱い可能性。

米国の労働市場は徐々に弱さを見せ始めています。8月の雇用統計では雇用者数は良好でしたが、賃金の伸びは鈍化し、労働市場の力強さが失われつつある可能性を示しました。過去の雇用統計のデータも下方修正されており、米国の労働市場は考えているよりも弱くなっている可能性もあります。

労働市場は思っているほど強くはない

8月の雇用統計の結果は強弱織り交ぜた結果となっており、考えられているほど力強さはない可能性が出てきました。

米国の非農業部門雇用者数は8月に堅調なペースで増加したが、賃金の伸びは鈍化した。労働市場の底堅さと鈍化の両方を示す強弱まちまちの内容となった。

  雇用者数の動向には、映画および陸運産業での合計5万4000人の減少を含む。それはエンターテインメント業界でのストライキと大手陸運会社の事業閉鎖を主に反映している。

  労働市場は今年、米経済を支え、少なくとも短期的にはリセッション(景気後退)を回避する一助となっている可能性がある。ここ数カ月、求人件数と賃金上昇率はともに後退しているものの、雇用と所得は個人消費を後押しするほど堅調だ。

  とはいえ、今回の雇用統計では、前月までの雇用が従来発表ほど好調ではなかったことが示された。6月と7月の雇用者数は11万人下方修正された。労働統計局が8月23日に発表した年次ベンチマーク改定の速報値によれば、3月までの1年間の雇用者増は30万6000人下方修正されそうなことも明らかになっている。

  ブルームバーグ・エコノミクスのスチュアート・ポール、イライザ・ウィンガー両エコノミストは「8月雇用統計は雇用者数の上振れとは裏腹に、利上げサイクルの一時停止を示唆する弱さがある。時間当たり賃金の伸びは著しく鈍化し、労働参加率は上昇した。特に高齢労働者と働き盛りの年齢層の女性で顕著だ。さらに、過去の数字は再び下方修正された」と述べた。

  今回の雇用統計は労働力として復帰している人が増えていることを示し、賃金上昇圧力を和らげる一助となる可能性もある。全体の労働参加率(就業者および求職者の合計である労働力人口の生産年齢人口に占める割合)は3月以来初めて上昇し、62.8%と2020年2月以来の高水準になった。「プライムエージ」と呼ばれる25-54歳の働き盛りの層では過去最高に近づいた。

  労働力需給のバランスが取れてきたことで、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)時の大幅な賃上げも影を潜めた。平均時給は前月比0.2%上昇と、昨年初め以来の低い伸び。前年同月比では4.3%上昇した。

  8月の雇用者数の増加は、ヘルスケア、娯楽・ホスピタリティー、建設業にけん引され、広範囲に及んだ。製造業の雇用者数は昨年10月以来の大幅増となり、機械や金属加工の雇用増を反映した。

  ハリウッド俳優労組によるストやトラック運送会社イエローの破綻がなければ、雇用者数はさらに増加していた可能性がある。全米自動車労組(UAW)によるストや政府閉鎖の可能性も、今後数カ月の雇用者数に影響する可能性がある。

  従業員の削減に動いている企業もある。TモバイルUSやチャールズ・シュワブが新たな人員削減を発表したため、8月のレイオフ者数(発表ベース)は3カ月ぶりの高水準となった。

  回答率の低下から雇用統計の正確性を疑問視するエコノミストもいる。給与と賃金のデータを作成する事業所調査の回答率は、8月としては2006年以来の低さだった。

  週平均労働時間は34.4時間にわずかに拡大した。需要が弱まると雇用主が人員を削減する前に労働時間を短縮させる傾向があるため、エコノミストはこの指標に注目している。

  不完全雇用率(フルタイムでの雇用を望みながらもパートタイムの職に就いている労働者を含む、より広い意味での失業率)は7.1%と、過去1年余りで最高となった。

  臨時雇用者数は7カ月連続で減少し、約2年ぶりの低水準。この指標は通常、労働市場の方向性を示す先行指標となっている。

  労働力への再加入者は2022年6月以来の高水準となった。しかし、8月に仕事を見つけられなかった人の数は増加した。

引用:bloombergより

このように米国の労働市場は徐々に力を失ってきているように見えます。雇用者数自体は増加していますが、賃金の伸びが鈍化してきており、やや軟化している印象を与えるものです。過去の統計の結果も下方修正されており、そういう意味では米国の労働市場は思っているよりも力強さはないのかもしれません。

楽観期待は禁物

今回の結果をどう評価するかというのは判断が分かれるところだと思いますが、思っていたよりも労働市場は強くはないというのは確かだと思います。過去のデータも下方修正されており、そういう意味では労働市場が思っていたほど堅調ではないということは理解しておいたほうがいいでしょう。市場でも発表後は為替がドル安方向へ向かっており、利上げの停止を織り込む形となってきています。その結果株式市場は上昇するという結果となりました。これだけ見ればマーケットは今後の楽観的なシナリオを見据えているような気がしますがまだなんとも言えないというのが正直なところです。実際、この結果を受けてソフトランディングへの期待が高まってはいますが、当局の人間からはまだインフレは高すぎるとの発言も出ています。そういう意味では期待するほど金利引き上げの熱意は失っていない可能性もあるでしょう。

まとめ

今日は8月の雇用統計について見てきました。労働市場は思っているほど強くはないようです。それをマーケットは好意的に受け止めていますが、実際にそのようになるかはまだわかりません。利上げが継続される可能性も、インフレが依然として高水準であることを考えると十分に考えられることを頭に入れておいたほうがいいでしょう。