ソフトランディングに対する楽観論

FRBはインフレを完全にコントロールし、経済をソフトランディングさせることに自信を持っているようです。今の所、インフレは落ち着きを見せ始め、経済も懸念されていたほどに悪化していません。労働市場も依然として好調であり、そういう意味では十分その可能性も見えてきたように思いますが、果たしてどうなのでしょうか?

ソフトランディングは可能か?

最近のFRBは困難と思われていたソフトランディングが可能であるとやや楽観的に考えているようです。

米連邦準備制度理事会(FRB)当局者らは、経済に強い痛みを感じさせずにインフレを抑え込むことができると、楽観的な見方を強めている。

  FRB当局者らはインフレ率を2%の目標に下げることに引き続きコミットしながらも、物価上昇圧力と労働市場が徐々に冷え込んでいる兆候を心強く思っており、行き過ぎた利上げでせっかくの「ソフトランディング(軟着陸)」のチャンスを無駄にしないよう腐心している。当局者らはそれを念頭に、今月19-20日の連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を据え置く準備を進めている。好調な経済データが相次ぐ中、必要であれば年内にもう一度金利を引き上げる可能性はある。

  この綱渡りはパウエルFRB議長の功績にとって極めて重要だ。インフレの強いショックが起きた後、リセッション(景気後退)を伴わずに物価の安定を取り戻したとなれば、利上げ開始が遅すぎたとの批判は多少和らぐだろう。

  元FRBシニアスタッフで、現在はデューク大学経済学教授のエレン・ミード氏は「ソフトランディングは本当に可能なのかもしれない」と話す。「これまでの仕事すべてを金融市場に台無しにされたくないから、興奮する気持ちを表に出したくないだろう」と述べた。

  ディスインフレという偽りの夜明けに幾度かやけどを負った政策当局者らは、信用引き締め終了を早まって宣言してしまうことを警戒しており、しばらくの間は金利上昇へのバイアスを維持する可能性が高い。

  既に景気抑制的な領域に入った金利をさらに引き上げる必要性をFOMCが確信するかどうかにおいて、これから出てくるデータが一層の重みを持つ。

  ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は7日、「われわれの政策は良い位置にあるが、引き続きデータ次第の姿勢が必要だろう」と語った。

 ここ数週間の統計は、インフレ熱が収束しつつあることを再確認させるものだった。

  FRBの中でもタカ派に位置するウォラー理事は5日のCNBCとのインタビューで、「差し迫ってすぐに何かをする必要があると示すものは一切ない」と発言。「何もしないで、データを待つことが可能だ」と述べ、次回FOMCで金利据え置きを支持することを示唆した。

  ウォラー氏やダラス連銀のローガン総裁のようなタカ派、およびボストン連銀のコリンズ総裁のような中道派は、年内利上げの可能性を維持している。

  ソフトランディングを成し遂げるには、労働市場と需要全体にさらなる減速を確認する必要があると、当局者らは述べている。

  しかし個人消費や住宅投資など予想を上回る強さを示した一連の統計を受け、エコノミストらは四半期国内総生産(GDP)予測を引き上げてきた。

  欧州と中国の経済失速は、ディスインフレという追い風を米金融政策に吹かせるかもしれない。中国の景気減速は「財のインフレ状況改善を確固たるものにしている」とJPモルガン・チェースのチーフエコノミスト、マイケル・フェローリ氏は述べた。

  エコノミスト予想はまた、10ー12月(第4四半期)の米生産が一段階落ちる可能性を示唆。バークレイズのシニアエコノミスト、ジョナサン・ミラー氏は学生ローン返済の再開や、利上げの影響継続による信用収縮を指摘、年率0.5%成長という「劇的な減速」を予測している。しかし「GDP成長率の強さには、これまでに繰り返し驚かされている」と述べた。

  これこそがFRBに突きつけられた課題だ。自分たちの予測に強い確信は持てず、インフレは依然高すぎるため追加利上げのカードは残しておく必要がある。これ以上経済を縛ると、「極めて珍しい」ソフトランディングを逃してしまう恐れがあるとミラー氏は述べた。

  インフレとの闘いでは「過剰な金融引き締め」で経済をリセッションに直行させる傾向があると、ミラー氏は指摘する。これこそが、今回は犯すまいとFRB当局者らが決意している過ちだ。

引用:bloombergより

このように、FRBは現在の状況を踏まえ、ソフトランディングへの期待を一段と高めています。実際のところ、インフレが落ち着きを見せたにもかかわらず、予想外に経済は失速していません。雇用も非常に強く、その期待というのはFRBだけではなく、マーケットにも広がっていると言っていいでしょう。そういう意味では今後の展開に大きな期待を持ってしまいそうになります。

そこまで簡単ではない

ただ、実際のところそう簡単には行かないでしょう。今のところ順調だと入ってもその道のりはまだまだ険しく長いものです。そういう意味では今後いくらでも失敗する可能性はあると思います。記事にもある通り、経済は予想外に強く、そのコントロールにはやや苦慮しているようにも見えます。経済が強すぎるのであれば引き締めを継続しなければなりませんが、やりすぎると当然ながら経済は急減速してしまう可能性が高いです。そして現在はすでにかなりの金利水準まで引き上げられており、今後さらなる引き上げというのはかなりの覚悟がいる作業となるでしょう。その微妙な力加減を間違うことなく決断できるのかというのがFRBに課せられた使命なのかなという感じがします。

まとめ

今日はFRBのソフトランディングに対する楽観的姿勢について見てきました。その可能性については確実に高くなったとは思います。しかし、それはあくまで相対的にであり、楽観的になれるほど高いとは正直思えません。失敗し、経済が急失速する可能性も十分にあるでしょう。そのためFRBには難しい判断が必要となると思いますが、それがうまく行くのかどうかはわかりません。ただそれを祈るのみと言った感じです。