インフレの原因はESGだった?

アメリカではインフレ懸念が台頭し、いまも大きなリスク要因として意識されています。世界を見ても半導体不足など、大きな流れとしてはインフレが問題になってきています。日本は未だにデフレなのであまり意識はしないかもしれません。そんな日本でも小麦粉の価格が上昇したり、外食チェーンの値段が上がったりと徐々に価格上昇の影響は出てきています。現在、最も重要な問題であるインフレですが、その要因は様々です。新型コロナウィルスの影響から経済活動を抑制していましたが、最近はワクチン摂取の効果もあり、少しずつ再開の動きが出てきています。それもインフレの要因だと言われていますが、ESGもインフレの要因として考えられています。ESGとインフレはあまり関係のないような気がしますが、そんなことはないようです。非常に面白いし重要な視点だと思うので、今日はその話をしたいと思います。

ESGとは

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉です。気候変動問題や人権問題などの世界的な社会課題が顕在化している中、企業が長期的成長を目指す上で重視すべきESGの観点での配慮ができていない企業は、投資家などから企業価値毀損のリスクを抱えているとみなされます。そのため、ESGに配慮した取り組みを行うことは、長期的な成長を支える経営基盤の強化につながると考えられています。

引用:NRIホームページより 

ESGとは環境問題や人権問題など社会活動をする上で重要な問題に対してきちんと取り組みましょうというものです。環境に配慮しない経営をしたり、人権を無視したひどい労働環境や差別を放置したりすることは大きな社会問題にもなるし、企業価値を毀損することになるためです。近年では多くの企業がESGに取り組み、実施をしています。また、投資家もESGに前向きな企業に投資をしようという、いわゆるESG投資も盛んになってきています。その規模は2018年には3100兆円で、世界の投資額の3分の1を占めるほどです。これからもこの流れは加速していくことでしょう。

なぜESGでインフレが加速するのか

ESGの説明を聞くと、とてもいいことのように思えますが何が問題なのでしょうか。パーシング・スクエアのビル・アックマン氏は  次のように述べています。

中央銀行は、ESGの取り組みがいかにインフレ的かを考えてこなかった。ESGは一過性ではなく、むしろ持続的で拡大していくものだ。ステークホルダー資本主義はさらに必要な賃金を押し上げるだろうが、他のインフレ要因であるエネルギー・コストも押し上げるだろう。

引用:The Financial Pointer® 【短信】ESGがインフレを押し上げる:ビル・アックマンより 

またマネックス証券取締役会長の松本大氏もマネクリのコラムの中でこんなことを書いています。

ESGを背景に、例えばE(環境)を背景に、脱炭素の掛け声の下にエネルギーの価格が上がってしまったり、或いはS(社会)を背景に人件費が高騰したり、そういう、今までのインフレとは違う理由での「プライスの上昇」という現象も起きています。そしてこれらは、金利を上げたからと云って制御出来るものではありません。しかも一過性のものではなくて、恐らくずっと続くものです。

引用:マネクリ ESGとインフレより 

ESGにより、より社会や人に配慮した経営を企業がするようになると、モノの価格は上昇すると言っているのです。例えば、化石燃料を減らそうという動きがいま、世界中で起きています。化石燃料を減らそうと言っても今までそれを使って発電や動力を得ていたものがなくなるわけではありません。何かで代替しないといけないということになります。それが太陽光発電や風力発電だと思いますが、当然、化石燃料すべてを代替できるわけがありません。そして、比較的温室効果ガスの少ないと言われている天然ガスの需要が非常に伸びています。石炭が使えないなら天然ガスを使うしかないのです。世界中でそういう動きになれば当然天然ガスの価格は上昇します。

また、労働者の労働環境を良くしようとすれば、例えば給料を上げる、時間外労働を減らす、作業環境を快適に作り変える。どれもタダでできるわけはありません。企業としては大きなコスト負担となり、それは最終的に消費者に転嫁されます。

我々に覚悟はあるのか

このようにESGを進めるということは明快なインフレ要因となるのです。そして、この流れは今後も加速することが予想されます。であれば世界でいま起こっているインフレの動きはこれからも継続するということです。これはとても大きな問題です。ESGの理念に対して反対をするという人はほとんどいないでしょう。社会や人権に配慮しようというのですから反対する理由はありません。しかしそれによって会社の経営が苦しくなったり、給料が減るなどの動きがあった場合、私達はESGの理念を守り続けることができるのでしょうか?実際、インフレを理由にESGの取り組みを緩めよういう動きも出てきているそうです。日本では未だデフレの真只中ということもあり、あまり意識されてはいないかもしれませんが、そのうち大きな問題として意識されるでしょう。

まとめ

今日はESGとインフレの関係について見ていきました。正直、ESGとインフレの関係性は考えたこともなかったのですが、言われてみればたしかにそうだろうなとは思います。いままではとにかく安くていいものと言うことが意識されてきましたが、これからはそれがどういう背景で作られているかということもより意識されていくでしょう。最近の大きなもので言えば、中国の新疆ウイグル自治区で作られた綿製品やソーラーパネルなどは使わないなどの動きがあります。これらも広い意味ではインフレ圧力の一因なのでしょう。ここまであからさまなものであれば、多少のコストアップをしたとしても多くの人は受け入れるのではないかと思います。しかし、身の回りのあらゆるものがESGにより価格上昇してしまえば、そんなこと言っていられないとなるかもしれません。かと言って、環境に全く配慮しないわけにもいけないし、人権も無視することはできない。なかなか難しい問題が突きつけられたなという感じがしました。しかし、もうそんなに時間があるわけではありません。おそらく非常に厳しい決断を迫られそうですが、少しでも被害が少なくなるように、自分自身のことは自分でできるようにしておきたいところです。そのためにしっかりと資産形成を頑張ろうと、改めて思いました。