黒田総裁がいくら否定しようとも市場は緩和終了へ向けて動き出している

年末に突如として行われた日銀の政策変更ですが、連日のごとく、このことに関する報道は行われています。日銀の黒田総裁も会見等でこれは金融緩和路線の変更ではないと何度も述べていますが、なかなか市場はそのように受け止めてはいないようです。受け止め方も様々なようですが、少なくとも市場がこのような動きをしているということは多くの関係者は今後の金融政策の変更を意識し始めていることは確実でしょう。そういう意味ではやはり今回のやり方というのはまずかったのかなとは思います。

金融政策の変更を意味するものではない

先日、日銀の黒田総裁は会見で、今回の政策の修正は金融緩和路線を変更するためのものではなく、あくまで円滑に事を進めるためのものだということを強調しました。

日本銀行の黒田東彦総裁は26日、20日の金融政策決定会合で決めた政策修正について、金融緩和を持続的かつ円滑に進めていくための対応であり、「出口の一歩ということでは全くない」と述べた。都内で行われた日本経済団体連合会の審議員会で講演した。

  イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の枠組みの下で金融緩和を続けていくことで、「賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標の持続的・安定的な達成を目指していく方針だ」と語った。

  日銀は20日の会合で、YCCで0%程度を誘導水準としている長期金利(10年国債金利)の変動許容幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大した。10年以外の各年限でも機動的な買い入れ額のさらなる増額や指し値オペの実施も決めた。

  総裁は、緩和的な金融環境を維持しつつ市場機能の改善を図る観点からYCCの運用面で幾つかの手段を講じたとした上で、「低水準のイールドカーブを維持しつつ、より円滑なカーブの形成を促すことが可能になる」と説明した。「実際、決定後の金融市場調節の下で、 ゆがみが生じていた10年物金利は上昇したが、それ以外の年限の上昇は抑えられている」との認識を示した。

  総裁は、出席した企業経営者に対して賃上げの重要性を改めて強調した。足元で見られる企業の価格設定行動の変化が「新しい慣行として定着するのか」を見極めていく必要があり、その実現には賃金と物価の好循環が重要と指摘。人件費によるコスト増が企業で生じると同時に、家計の所得改善による需要増が「緩やかな価格上昇につながっていく」と述べた。

  賃金の見通しについては、労働需給のタイト化によって非正規雇用を中心に賃金の伸び率が高まっていく中で、「相対的に雇用の流動性が高い中小企業、対面型サービス業、若年層を中心とした正規雇用の賃金にも広がっていく」とした。来年の春闘におけるベアや物価上昇の反映度合いに注目しているとも語った。

  現状は「バブル崩壊以降、長きにわたる低インフレ・低成長の流れを転換できるかという重要な岐路に差し掛かっている」と説明。日銀としては緩和的な金融環境をしっかりと維持し、企業の前向きな取り組みを最大限後押ししていくとの考えを示した。

   原材料高や円安の価格転嫁を背景に、消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)は11月に前年比3.7%上昇まで伸び率を高めた。日銀が目標とする2%を大幅に上回るが、日銀は来年にかけてコストプッシュ要因のはく落で伸びが縮小していくと主張。持続的・安定的な物価目標の実現には名目賃金の上昇が不可欠とし、来年の春闘をはじめとした賃上げの動向を注視している。

引用:Bloombergより

このように、黒田総裁は重ねて金融緩和路線の変更を否定しています。実際、国債の買い入れ額を増やしたり緩和をやめるつもりはないという姿勢は見せています。しかし、約10年近く続いてきたものを変更したということは事実であり、市場に与えるインパクトというのはかなりあったのだろうと思います。

何を言おうとも市場はもう緩和終了を考え始めている

今回のことで金融緩和路線を修正するということではないのかなと個人的には思っています。確かに金利の上限は緩めましたがそれでも緩和を続けていくことは示しているのですぐにどうこうということはないでしょう。しかし、長期的に見れば政策の変更がありうると市場に思わせるには十分なことであり、経済に与える影響も小さくはないでしょう。実際、住宅ローンなどはやや金利が上昇しそうな気配を見せていますし、いくら黒田総裁が否定しても市場はもうその可能性を織り込みながら変わっていくのかなという印象です。

すべてを黒田総裁の押し付けるのはおかしい

今回のことを受けて黒田総裁に対する批判も多く出ており、それには同意する部分もありますが、それでも個人的には10年間よくやったのではないかと思っています。そもそも日銀だけがデフレの責任ではないでしょうし、その中でも黒田総裁はそれを解消するためにできることはかなりやってきたと思います。そして最近は海外要因ではあると思いますが、物価が上昇傾向にあったことは事実です。そういう意味ではいつまでも緩和一辺倒では政策の幅がなくなり、余計に苦しくなる可能性もあったのではないかと思います。そういう意味では柔軟な金融政策を可能とする意味も今回の変更には合ったのだろうと思います。

まとめ

今日は日銀の政策変更に対する黒田総裁の発言についてみてきました。何を言おうとも市場はもう金融政策の変更を織り込みだしています。そういう意味ではもう少しやりようはあったのかなとは思います。しかし、今回の事態のすべての責任を黒田総裁に押し付けるというのはさすがにやりすぎでしょう。これだけ緩和政策を続けてきて、これ以上日銀のできることというのはあまりないような気がします。それよりも何の政策の後押しもしなかった政治や賃上げをしない企業側にも多くの問題があるのだろうと思います。もうすぐ黒田総裁の任期が来ます。そうなるとおそらくは日本の経済は大きく変わっていくことでしょう。それがどのようになるのかはわかりませんが、我々自身も準備と覚悟をしておく必要があるのかなと思います。