最近の原油価格下落が一時的であると思えてならない

最近は落ち着いてきた原油価格ですが、いまだ上昇傾向であることには変わりありません。これによりがガソリンだけではなく、灯油をはじめとした燃料や多くの石油由来の製品も上昇しています。これから冬になると暖房を使うようになるので、ますます燃料費がかさむことになります。燃料価格の上昇は家計や企業業績を直撃することとなるでしょう。今年の冬は非常に厳しいものとなりそうですが、今後もこの動きは続くのでしょうか。今後の原油価格について少し考えてみたいと思います。

落ち着いてきた原油先物市場

原油価格は上昇を続けてきましたが、ここ最近は大きく下落してきました。各国か強調して戦略石油備蓄を放出することが決まり、それにより大きく価格は下落していきました。しかし、これは短期的な対処療法でしかなく、構造的な問題は何も解決していません。つまり、ここ最近の価格上昇の原因を取り除かない限り、価格はすぐに元に戻ることになるということです。今は石油備蓄放出を受け価格は下落していますが、市場はもうそのことは織り込んでしまいました。今後なんらかの対応策を講じなければ、また価格は上昇を始めることになるでしょうし、その可能性は非常に高いと思います。機関投資家による原油先物の買い越し額は確実に増えており、長期的には上昇トレンドであることは間違いないでしょう。冬が終わり、暖かくなれば暖房需要は減っていきますので短期的には下落することもあるとは思いますが、その後は価格上昇が続くとみられています。

Bloomberg.com

バイデン米政権から各国への石油備蓄の放出要請は、最近数週間の原油価格の下落を受け、市場に既に完全に織り込まれたとゴールド…

実は原油価格は米国次第で何とでもなる

物の価格は需給によって決まりますので、価格を低くしようと思えば供給を増やすか需要を減らすしかありません。需要については新型コロナウィルスパンデミックからの経済活動再開によって非常に伸びています。それを抑えるというのは現実的に不可能だし、そんなことをしてしまえばとんでもない不景気になってしまうのでありえない選択です。なので供給を増やすしかありませんが、なかなか供給は増えません。石油の供給元といえばOPECプラスが有名ですが、実は一番石油埋蔵量が大きいのは米国です。いわゆるシェール革命により米国の石油埋蔵量は一気に増えました。なので、米国がその気になれば原油価格をコントロールすることは意外と簡単にできます。しかし、現実にはなかなか難しいようです。最近に気候変動問題により、化石燃料に対する風当たりが非常に厳しいというのは御存じだと思います。米国でも当然反対の意見は多く、なかなか増産しずらいというのが現状です。しかもシェールオイルは採掘する際の環境負荷が大きいということも増産を難しくしている原因でもあります。さらに今は民主党政権であるため、環境負荷の大きな政策はとりずらいという何十にも重なった要因のために、米国の石油生産量は伸びずらい状況なのです。

OPECプラスも増産する気配なし

したがって現在の原油の生産量を決定するのはOPECプラスといういわゆる中東産油国やロシアなどの国となっています。これらの国が増産してくれないと原油価格が落ち着くことはないのです。しかし、OPECプラスの国々はあまり増産に積極的ではありません。理由はいくつかあると思いますが、一つに原油の需要の先行きが不透明である点が挙げられます。今は非常に需要が多くなり価格も上昇していますが、これがいつまで続くのかはわかりません。特に最近はまた新型コロナウィルスの感染が拡大してロックダウンがとられる国も出てきます。この流れが続けば経済は冷え込み、また需要は大きく落ち込むことになるでしょう。そんな中わざわざ増産してしまえば、大きく価格が下落するのは目に見えています。そうなってしまえば生産国としては大損害を被るだけなので、やすやすと増産はできないのです。

ESGも価格上昇の要因

もう一つ増産できない要因としては、元々原油の需要はESGの流れによって減少傾向にあったためです。最近の環境保護の動きによって原油をはじめとした化石燃料の需要は、将来にわたって大きく落ち込むことが予想されています。当然生産国としては死活問題ですから何とかしたいと思っていたでしょう。そこに今回の問題が起きました。何も問題ないときはもう原油なんて使うのやめようといっておきながら、いざ困ったら原油を売ってくれというのは非常に都合のいい話です。生産国の立場から見ればとても頭にくる話でしょう。さんざん悪者扱いしておきながら今度は助けてくれと言っているのですから当然です。であれば今後、需要の減少が見込めるわけですから稼げるときに稼いでやろうと思うのは当然の感覚ではないでしょうか。私は多くの産油国がそのように思っているのではないかと思っています。

金融緩和がさらにダメ押し

最後にもう一つ、価格上昇の要因としては新型コロナウィルスパンデミックによって世界中で金融緩和が起こり、金余りの状態が続いていることも原因でしょう。その多くは株式や商品などの金融市場に流れ込みました。通常であれば現実世界でも消費されるでしょうが、非常に強固な行動制限が世界中で実施されているため、余剰資金の行き場がほとんどない状態のためです。原油もその影響を当然受けており、価格上昇の一因となっているのです。米国ではテーパリングが開始され、金融緩和が縮小される動きがようやく出てきました。よって今後は金融市場に流れていたお金が少しずつ逃げていくと思われます。しかし、まだそれは始まったばかりですし、新型コロナウィルスの感染も再拡大しており、どうなるかわからない状態です。今以上の緩和がされるとは思いませんが、非常に不透明な状態であることは変わりありません。

まとめ

今日は原油価格についてみていきました。最近は石油備蓄放出の決定もあり下落傾向を示していますが、継続的に下落するとはとても思えない状態です。これから本格的な冬になります。当然暖房需要が非常に伸びますので、価格はさらに上昇しやすくなるでしょう。米国やOPECプラスなど原油生産国も様々な状況から増産をするとは思えません。なので価格が下落要因がほとんどないというのが現状ではないかと思います。こんな状況が続けば景気が悪くなり、それに伴い需要が減って価格も下落しそうですが、それでは元も子もありません。何とか世界各国の政府と産油国は世界経済が大きく落ち込むようなことはないように協調して対処してもらいたいものです。