アメリカの労働者はなぜ消えてしまったのか

アメリカでは今、深刻な労働者不足の状況になっています。新型コロナウィルスの影響により、多くの企業は従業員を解雇しました。アメリカでは日本とは違い、比較的容易に企業は労働者を解雇します。この辺はお国柄、社会システムの違いかなとは思いますが、去年は多くの労働者が会社を去ることになりました。そして今年、ワクチンの影響もあり、少しずつですが経済活動が再開され始めています。それに伴い企業も労働者を呼び戻そうと求人を出しますが、なかなか人が集まらない状況です。いったいどういうことなのか。解雇された労働者が一気にアメリカを脱出したというのであれば辻褄は会いますが、当然そんなことはありません。労働者は確実にアメリカ国内にいるのにもかかわらず、企業に戻ってこないのです。一体何が起きているのでしょうか。

現在起きていること

現在、アメリカでは多くの場所で労働者不足が起きています。その理由は、多くの労働者が、今すぐ社会に復帰する必要性を感じていないからです。いま直ぐにでも仕事をしたいと積極的に求職活動をしているのは、労働者のわずか10%しかいないらしい。その一方で、全米での求人数は930万人に達し、かつてないほどの状況になっています。なぜ労働者は仕事をしようとしないのか。理由は主に以下の3つが考えられています。

  • 新型コロナウィルスへの感染を恐れており、もっとワクチンが普及し、安心できるようになるまで仕事を控えている。
  • 手厚い失業給付など、資金に余裕があるために求職活動をしていない。
  • 学校が対面授業を再開しておらず、子供の面倒を見る必要があるため、仕事を控えている。

新型コロナウィルスに恐怖を感じている人からすれば、仕事どころではないでしょう。誰だって自分の命が一番大切でです。いまの状況がリスクを取ってまで仕事をするべきではないと思えば、当然会社には戻ってきません。なので、一段とワクチン接種が普及し、パンデミックが収まらない限り、この層は労働市場には戻ってこないでしょう。

資金的に余裕がある人も慌てて仕事をしようとは思わないかもしれません。今回のパンデミックでは、アメリカ政府は通常よりも手厚い補償を失業者に支払っています。これが労働者が市場に戻ってこない原因だと一部からは批判が出ているようですが、バイデン大統領は「もっと多くの賃金を払えばいい」と言っているようです。よってしばらくはこの状況は変わらないということでしょう。であるならば、資金的に余裕がある人もしばらく労働市場には戻ってきません。もともと、接客業など低賃金労働をしている人からすれば、やりたくてやっているというわけではないでしょう。そんな賃金も低く、尊厳も傷つけられるような環境に戻るくらいなら、余裕のあるうちは自由にしようと思っているのかもしれません。

売り手市場はいつまで?

しかし、この状況がいつまでも続くわけはありません。9月には学校が対面授業を再開しました。そうなれば、子供を理由に求職を控えていた人たちは労働市場に戻ってくるでしょう。おそらくその影響はそろそろ現れてくるのではないかと思います。また、ステイホームの状況を後期と捉え、自己研鑽に励んでいた人たちも徐々に社会に復帰するかもしれない。そして企業側も、いつまでも戻ってこない労働者のことは放っておいて、AIやロボットなど、テクノロジーを使って状況を改善する可能性も十分にあります。ロボットはどんな環境でも文句は言わないし、給料も払わなくてよい。一度機会を導入してしまえばもう労働者を必要とはしなくなるでしょう。そうなると今度は求人数が減少し、労働者が戻りたくても戻れないという状況になる可能性もあるし、そう考えている経営者は少なくないはずです。

皮肉な結果

アメリカの労働市場はしばらく売り手市場の状況が続いてきました。この流れが続けば企業業績にも影響がでて来るかもしれません。株価は今のところ影響なさそうではあるが、注意が必要でしょう。実はこの一年の株価の上昇は、資産効果の影響により労働者の労働意欲をそいできた要因でもあるらしい。そういう意味では株価が下落することも、状況を改善する一因になるかもしれないが、投資家としてはたまったものではない。しかし、経済を助けるために金融緩和などあらゆる政策を行ってきた一年ですが、結果として経済活動を阻害する要因となってしまったのはなんとも皮肉なものです。