ロシアのウクライナ侵攻により利上げのペースは緩やかになった

ロシアによるウクライナ侵攻が日々不透明感を増しています。ロシアにとっては明らかに誤算続きのようで、当初想定していたよりもウクライナ制圧がうまくいっていないようです。そのため今回の事態は短期間で終息するというシナリオはやや見込みづらい展開となっているように思えます。そのため、米国をはじめ世界経済に与える影響というものも長期化する可能性が出てきました。そんな中、先日FRBのパウエル議長が議会証言を行いました。これは今後のFRBの金融政策が現時点でどのような方向性なのかを知る重要なものです。そういうわけで今日は先日行われたパウエル議長の議会証言についてみていきたいと思います。

パウエル議長の議会証言の要旨

パウエル議長は2日、下院金融サービス委員会の公聴会での議会証言に臨みました。発言の要旨については以下のようになります。

  • 非常に刺激的な金融政策環境から脱却する必要
  • 住宅ローン金利の上昇によって住宅需要は減退し始める可能性
  • 米経済は極めて堅調
  • 労働市場は非常にタイト
  • インフレは目標をはるかに上回る
  • 数カ月先の利上げに柔軟に対応へ
  • ロシアのウクライナ侵攻前、FRBは3月に利上げを引き上げ、年内全てが「ライブ会合」になると想定していた
  • ウクライナでの戦争を踏まえ、慎重な政策運営へ
  • 戦争の経済的影響は極めて不確定
  • すでに商品(コモディティ)に影響、支出にも影響の可能性
  • こうした影響の規模やどの程度長期間続くかは不明
  • 引き続き、3月の25ベーシスポイント(bp)利上げは適切と判断
  • バランスシート縮小に向けた計画を巡り、3月に進展すること期待
  • バランスシート縮小巡る計画、3月の会合では確定していない
  • インフレはピークを付け、年内に低下し始める
  • インフレ高止まりなら、1回もしくは複数回の会合にわたり50bpの利上げを行い、積極的に対応
  • 仮想通貨に対する議会の対応必要
  • FRBはウクライナ情勢に対し機敏に対応する必要
  • FRBは昨年来、サイバー攻撃への警戒を高めている
  • 米金融システムは強固、ウクライナ情勢に十分耐えられる
  • 米国の銀行、資本不足に陥っていない
  • 供給面の阻害、予想より長期化
  • 市場はわれわれのアセスメントに適切に反応
  • 過去数十年間で経験したことがないインフレに直面
  • インフレの種類も異なる、モノ製造部門に起因
  • 景気拡大を維持しながら物価安定を確保することが政策運営の主眼
  • インフレが転換したと確信を持って言えないことを謙虚に受け止める
  • インフレの緩和を期待している
  • 一連の利上げとバランスシート縮小に取り組む必要
  • インフレは高すぎる
  • インフレ制御に取り組んでいる
  • バランスシートをいつ縮小し始めるかはまだ分からない
  • サイバー攻撃防御にあらゆる対策を講じている
  • 労働参加率の低下が賃金上昇につながっている
  • SWIFTからのロシア排除で予期せぬ影響が出る可能性
  • 対ロシア制裁による長期的な影響を推し量るのは困難
  • 米経済、対ロシア制裁で直接的な影響を受けず
  • 原油価格はウクライナ情勢次第
  • 米金融市場は円滑に機能、流動性は潤沢
  • FRBは他の主要中銀と継続的に連絡
  • ウクライナ情勢を巡る他の主要中銀の見方の把握に極めて有用
  • われわれにはツールがあり、それらを使ってインフレをコントロールしていく
  • 石油価格の上昇がインフレの連鎖を引き起こさないようにしていく
  • バランスシートを経済に見合った規模に回帰させる
  • 銀行に対して融資の可否を指示するのはFRBの役割ではない
  • 気候変動に関するストレスシナリオは自己資本比率を設定するためのものではない
  • FOMCメンバーの大半は現在、最大雇用にあると考えている
  • インフレはサービス業でも高すぎる
  • 移民減少が人手不足の一因であることは間違いない
  • バランスシートを望ましい規模にするには3年程度かかる
  • 縮小の方向性を決めた後、ペースの加減速はあるかもしれないが3年程度が目安となる
  • ウクライナでの戦争を受けグローバル市場やドル調達市場へのストレスを注視している
  • 市場は現在、機能している
  • 年内に一連の利上げを実施すると予想
  • 労働市場は極めて力強い
  • 経済は利上げに耐えられる
  • 2週間後のFOMCで利上げが決定され、年内に一連の利上げが実施されると予想、ウクライナ情勢を踏まえ慎重に対応
  • 中立金利は2─2.5%の間のどこかに存在
  • ソフトランディングは可能
  • ウクライナで流動的な状態が続く限り、FRBは不確実性を高めることを回避
  • インフレは上下に変動すると予想、変動しなければ積極的に動く用意

引用:REUTERS 〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の議会証言要旨 より

ウクライナ侵攻により利上げのペースは緩やかになったことは株式市場にとってプラス

今回の発言でパウエル議長はやはりウクライナ侵攻による景気への影響についてはかなり警戒しているように思えます。ウクライナ侵攻以前には想定外のタカ派シフトをしたFRBは3月には50bpの利上げをするのではないかという意見が市場を多く締めていたように思います。しかし、今回の発言では3月の利上げは0.25bpと述べています。これはFRBが今回の軍事侵攻の影響は米国経済にとって無視できないものとなると考えている証でしょう。そうでないのであればこれまで通りインフレを抑制するために厳しい金融政策を維持したはずです。ですが今回の事態を受けてパウエル議長は非常に慎重な姿勢に変化しました。このことは株式市場にとってはプラスでしょう。少なくとも金利上昇圧力による株価の下落圧力というのは緩和されたとみていいでしょう。もちろん経済自体が悪化してしまえば株価も下落するでしょうし、しばらくは非常に不安定な展開になることは間違いないと思われます。ただ、FRBは今回の事態について危険性を認識しており、インフレ抑制だけではなく、柔軟な対応をとるであろうことは市場にとってプラスであることは間違いないと思います。そういう意味でも今回の発言を聞けたことは良かったのではないかと思います。

まとめ

今回は先日行われたパウエル議長の議会証言についてみてきました。今回のウクライナ侵攻を受けてFRBがそのリスクをきちんと認識しているということを確認できたのは良かったのではないかと思います。そのため利上げのペースは若干緩やかになる可能性が高く、株式市場にとってはプラスに働くでしょう。しかし、状況は非常に流動的であり、今後も不安定な動きが続くことは間違いないと思われます。特にロシアの動きというのは非常に不透明感を増すものが多く、全く将来を予想できない状態になっています。想定される最悪の事態が起これば株式市場だけではなく世界経済や社会を根本から変えてしまう可能性もあるために、不安定な株価の動きというのはしばらく続くでしょう。そういう意味でも今後もウクライナ侵攻の動きやFRBの金融政策には非常に注目されます。